分子シミュレーション討論会の福井地区での開催は, 上田顯先生のお世話により福井県立大学で開催されて以来, 16年ぶりとなります。 奇しくも同じ日程となりました。 当時私は,分子シミュレーションの分野で研究を始めてから間もない頃で, 何もかもが新鮮であったことを思い出します。 電子顕微鏡でも見ることができない分子の世界を, まるで手に取るように精緻に観察できる分子シミュレーションに無限の可能性を感じました。
その頃企業においては, 材料設計やドラッグデザインへの応用の期待が高まっていましたが, その後の長引く景気の低迷にあわせて「魔法の箱」ではないことも知られるようになり, 分子シミュレーションは冬の時代を迎えるかに思われました。 しかし,その有用性に変わるところはなく,過剰な期待が無くなった分, 地道で着実な発展があったように思います。 この16年間で,古典力学に基づく分子動力学法を中心として, 量子系への展開,あるいは,粗視化モデルとの連携において顕著な進歩があり, 電子レベルからメソスケールまでのシームレスな取り扱いが可能になってきました。 また,実験研究者との緊密な連携, アカデミック分野と企業の応用研究との橋渡しなど, 分子シミュレーションが果たす役割はますます重要になってきています。
16年前に学生,あるいは,それに近い身分で討論会に参加された方々が,今は, 研究の第一線で多数活躍されています。 ぜひ,最新の成果とともにこれまでの歩みなども含めてご講演して頂ければと存じます。 また,次の世代を担う学生の方には「学生優秀発表賞」が用意してありますので, 奮って発表を申込んで下さい。もちろん,ベテランの先生方のご発表も歓迎いたします。 若い世代へのメッセージをいただきたく存じます。
招待講演には,今回,2名の先生方をお招きしています。 西浦廉政先生はJSTのプロジェクト「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探究」 の領域統括をされており,材料,生命,環境, 情報通信などの諸分野における課題解決を目指して, 数学や計算機シミュレーションを駆使した研究を推進されています。 我々が目指す方向と共通する点も多く,分子シミュレーションの立ち位置を考えるうえで, 非常に参考になるお話をしていただけると思います。 陣内浩司先生は電子線トモグラフィー法の第一人者であり, 高分子材料のナノスケールの構造を,実際に「三次元的」に観察されています。 ナノスケールの構造を「見る」ことは,分子シミュレーションの重要な目的の一つであり, 相補的な関係にあります。今回は,実験ならではの苦労話も交えてお話頂けると思います。
会場のAOSSAは福井弁の「あおっさ」(会いましょう)にちなんで名付けられました。 異分野の研究者が分子シミュレーションを核に集まる本討論会の伝統にぴったりな会場です。 ちょうど会期の頃は,雪を抱いた白山連峰の遠景と里の紅葉が同時に楽しめ, 越前ガニをはじめ,日本海の海の幸が美味しくなる時期でもあります。 歴史と自然の宝庫,健康長寿の福井へ,皆さんお誘い合わせてお越しください。
実行委員一同,心より,皆様のお越しをお待ちしています。
2010年6月吉日
第24回分子シミュレーション討論会実行委員会
福井大学 玉井 良則