招待講演
- 講師:
- 中村振一郎 先生(理化学研究所 中村特別研究室)
- 題目:
- 天然光合成PSIIが行う不思議な酸素発生のメカニズム
- 日時:
- 11月12日(1日目)15:10 - 16:00
- 概要:
- 2011年、梅名泰史らはNatureで天然光合成の触媒(MnOCaCl)のX線構造を報告した。ここを舞台に太陽光のエネルギーを使って、一重項の水2分子が三重項の酸素1分子に酸化される。筆者らが見慣れた工業的な実用触媒に比較して、到底理解しがたい精妙な触媒反応プロセスが行われている。このようなことが可能である秘密は、おそらくMn触媒の複雑なスピン状態と750kDaのタンパクの搖動ダイナミクスがカップルして高効率の反応を進めている所に潜んでいるのであろう。我々は、その分子レベルのメカニズム解明を目指して全タンパクの古典MDとMn錯体のQM/MM計算を遂行している。その現状を報告しよう。
- 講師:
- 牧野淳一郎 先生(理化学研究所 計算科学研究機構)
- 題目:
- エクサスケールコンピュータとその上での分子シミュレーション
- 日時:
- 11月13日(2日目)15:10 - 16:00
- 概要:
- 分子シミュレーション、特にタンパク質等生体分子のシミュレーションは
長い歴史があり、様々なアプローチが試みられているが、もっとも「力任せ」な
アプローチである古典 MD での長時間シミュレーションがサイエンスとしても興
味深いことは多くの人が認めるところであろう。
-
しかし、近年の HPC 用計算機の発展方向は、並列度は半導体の微細化によって
進むものの、クロックサイクルの向上は止まる、ないしここ10年ではゆっくり低
下してきており、長時間シミュレーションの高速化には必ずしもつながっていな
かった。「京」においても、1タイムステップあたりの計算時間は5ミリ秒程度に
なっており、それ以上の高速化は困難である。これは、並列計算の問題として
は、並列化効率、特に通信レイテンシによってスケーラビリティが制限される、
という問題は理解できる。
-
一方、古典MDの高速化に特化した専用計算機 ANTON では、扱える原子数が必ず
しも多くない、アルゴリズムが事実上固定されている、といった制限はあるもの
の、1タイムステップの時間としては100倍程度の高速化を実現している。
-
日本では「京」の後継となるエクサスケールコンピュータの開発プロジェクトが
発足している。その中で、低レイテンシ化、分子シミュレーションとのコデザイ
ンについてどのようなアプローチがされているかを紹介したい。